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最高裁判所第一小法廷 昭和37年(オ)1388号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

論旨は、原判決が本件農地の買収計画樹立にあたり、利害関係を有する被上告人原宗作が農地委員会長としてその議事に関与したからといつて、農地調整法一五条ノ一二に違反するものでないと判示したことは、右法条の解釈適用を誤つたものであると主張する。

しかし、行政処分はそれが違法であつても常に無効となるわけではなく、その瑕疵が重大かつ明白な場合に限り無効と解すべきこと当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(オ)第二〇六号、同三一年七月一八日大法廷判決、民集一〇巻七号八九〇頁参照)。いま本件についてこれを見るのに、被上告人原宗作が農地委員会長として本件農地買収計画樹立決議の議事に関与したことが、所論のごとく農地調整法一五条ノ一二に違反するものであり、従つて原審の判示に右法条の解釈適用を誤つた違法があるとしても、自作農創設特別措置法三条の規定に基づく農地買収にあつては、農地委員会の裁量権行使の範囲は比較的限定されていること、買収された農地が現実に売渡されるためには改めて市町村農地委員会のその旨の審議議決を必要とすること(同法一六条一項、一八条一項参照)にかんがみ、他に著しく決議の公正を害する特段の事由の認められない本件においては、右農地買収計画樹立決議の瑕疵は同決議を無効ならしめるほどの重大な違法とはいえないと解するのを相当とする。

また、被上告人原恭一及び同富田佐一が前記被上告人原宗作と「同一戸籍内ニ在ル」旨の上告人の主張は、原判決の認めないところであり、その認定は記録に徴して首肯するに足りる。

されば、本件農地買収処分及び売渡処分を無効でないとした原判決の結論は、結局正当なるを失わず、論旨は、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背を主張するものでないが、原審の適法にした証拠の取捨判断及び事実認定を非難するに帰し、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤朔郎)

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